Hirayaブログ

@fumi_mdのブログです。たまに何かを書くと思います。

中国のアンドロイドストアが凄い!盛り上がるインディーゲーム市場

今回は中国のAndroidストア事情について書こうと思います。

途中でPujia8スタジオというのが出てきますが、なにそれ?という方はこちらの記事をどうぞ。 

Pujia8スタジオという中国の元海賊版翻訳グループが合法企業化したお話です。

中国のAndroidストア事情

中国の大手アンドロイドストア概況

現在、中国本土ではGooglePlayが使えません。2010年Googleが撤退したからです。

そのため大量のAndroidストアが乱立しています。

以下が主要なストアとそのMAU(月間ユニーク訪問者数)です。

※数字は結構堅め(各社の公式発表では大体この数割増し)

順位 プラットフォーム MAU(万)
 1 応用宝(テンセント) 19235
 2 百度手机助手(バイドゥ) 17433
 3 360手机助手 12188
 4 小米応用商店(シャオミ) 10435
 5 OPPO軟件商店 9142
 6 華為応用市場(ファーウェイ) 8077
 7 vivo応用商店 5549
 8 豌豆荚 2863
 9 PP助手 2576
 10 魅族応用商店 2427
 11 安卓市場 2037
 12 三星応用商店 1732
 13 安智市場 1680
 14 酪派応用商店 1499
 -- TapTap 231

ちなみにFacebookの国内MAUが2700万、Instagramが1600万です。

まずTencent、Baidu、Qihoo360の御三家が上位を占めています。1位のテンセントは2億MAUですね。Qihoo360についてはあまり聞き馴染みがないかもしれませんがNYSEにも上場している中国のセキュリティソフト最大手です。

次にXiaomi、OPPO、Huawei、VIVOの中国スマホメーカーが揃ってランクインしています、これらのストアアプリは端末にプリインストールされているものですね。

続く豌豆荚はソフトバンクが過去に出資し、2016年アリババに買収された企業です。

といってもおそらく「豌豆荚」なんて誰も聞いたことないですよね。僕も知りませんでした。そんな日本では無名の存在でもFacebookと同じだけのMAUがあるんですから、中国の規模感の凄さが分かるかと思います。

モバイルアプリの市場規模

もちろん凄いのはユーザー数だけではありません。

中国のビデオゲーム市場は2017年、290億ドルまで拡大し世界全体の25%を占めると予測されています。内モバイルゲーム市場は146億ドルです。

これは特に市場の大きいアメリカや日本と同等、もしくはそれ以上の数字となる見込みです。中国はAndroid比率が高いですから、Androidアプリに限れば世界一となります。

政府の規制

世界中のゲームデベロッパー(開発会社)がこの市場を狙っています。

しかし参入は簡単ではありません。なぜなら中国のモバイルゲーム市場は政府の厳しい統制を受けているからです。

まず応用宝(テンセント)などの大手ストアにおいて課金収益型のアプリをリリースしようと考えた場合、政府の発行番号(版号)を取得する必要があります。

しかしこの発行番号、簡単には取れません。審査は厳しく、期間も3~6ヶ月程かかります。当然ですが取得には現地の企業と組む必要もあります。

いざ正式にリリース出来たとしても思ったよりは儲からないかもしれません。なぜなら中国では各アプリストアと現地パブリッシャーが手数料を二重に徴収しているからです。日本のGooglePlayではユーザーが100円払えばデベロッパー(開発会社)には70円が支払われますが、中国ではおよそ30~20円程度まで落ち込みます。

ちなみにテンセントはゲーム売上世界No1の企業となりましたが、中国のコアユーザーにしてみればテンセント開発のゲームはどこかで見たようなゲームばかりでオリジナル性が感じられないとのことでした。

海外のネットゲーム発表時、中国の代理店がテンセントだと分かると皆「やった!テンセント愛してる!」と喜ぶが、テンセントが新作ゲームを発表すると「またテンセントかよ…」というのが中国のゲーマーの感覚のようです。

無料ゲームがストアにない理由

なら課金収益型のアプリではなく広告収益型のアプリをリリースすれば良いだろうと思うかもしれませんが、中国の大手ストアにはそういった無料ゲームは殆どありません。

理由は簡単でストアとパブリッシャーに旨味がないからです。上記の図で示した通り中国では各ストアが必死に覇権を争っているわけですが、中で働いている社員達もまた死に物狂いで業績を競い合っています。

大手ストア・パブリッシャーの社員には厳しい月売上ノルマがあり、自分の担当するアプリでその金額を絶対に達成しなければなりません。そのため無料ゲームにリソースを費やしている時間などありません。わざわざ時間を削って広告モデルの無料ゲームをリリースした所で一銭の収入にもならないわけですから。

そのため大手ストアでは手数料の多くはいるオンライン・ソーシャルゲームがランキング上位を常に占めています。仮に無料・インディーゲームが配信されたとしてもDL数が1万を超えることはまずありません。

ちなみに、中国でもGooglePlayを使っている人はコアユーザーを中心に結構いるようです。もちろん通常の方法ではアクセス出来ないのでモバイルVPNを使っているわけですが、その内9割はFGOユーザーだとか。そんなことがまことしやかに言われているようです。(中国では日本のFateGoが流行っていますが、中国版よりも日本版の方が規制もなく更新も早いためコアなユーザーは日本版をプレイするという意味) 

盛り上がるインディーズ市場

モバイルゲームが流行る背景

中国の学生は皆、寮住みです。

高校生から入寮し、大学卒業までずっと二段ベッドが並んだ部屋で複数の学友と暮らします。クラスメイトが横で勉強しているのにテレビから大音量を垂れ流しゲームを楽しむなんて出来ないですよね。

ということで中国の学生は皆ノートPCやスマホでゲームをします。中国は今やPCゲームDL販売サイト「Steam」の売上が米国に次ぐ2位となっています。しかし対してコンシューマーの市場規模はモバイルやPCゲームに対し10分の1以下、微々たるものです。 

2015年までは「ゲーム禁制令」という据え置きゲーム機の販売を規制する法律があったので、それも原因の一つでしょう。コアゲーマーは香港経由などで密輸していたそうですが、やはり学生やライトユーザーにとってはまだまだゲームはPCやモバイル機器でやるものという認識のようです。

ちなみに中国での高校生活についてはこちらの中国産ギャルゲーで追体験出来るようですよ。

高考恋爱一百天官方网站

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高考とは「全国普通高等学校招生入学考試」のことで、日本のセンター試験を100倍の規模にしたような中国での一大イベントです。このゲームをプレイした人はもれなく恋愛なんかよりも成績の方が気になってしまうとか。 

TAPTAPの登場とインディゲーム元年

前段で大手ストアにはインディゲームがないと書きましたが、それはあくまで供給側の都合です。「ユーザーからすれば面白いインディゲームをプレイしたい人もいるだろうし、その需要に応えれば他社との競争でも有利になれるのでは?」と考えた人もいるかと思います。

その考えをそのまま実行したのが今、勢いのある中国のAndroidストア「TAPTAP」です。

TAPTAPはユーザー同士が活発に議論し面白いゲームをオススメし合うストアというコンセプトで中国のスタートアップ企業により運営されています。TAPTAP自身の運営はあくまで中立で、ユーザーが面白いゲームを見つけ皆にオススメする環境(場所)の構築に全力を尽くすという方針のようです。

しかしそんなことよりも、TAPTAPにおいて特筆すべき点は審査が緩い(ほぼ無い)という所です。

大手では数ヶ月かかる所がTAPTAPでは数日で済んでしまいます。これにはおそらく様々な規制の抜け道やアプリの取捨選択、課金要素の有無などが絡んでいるのですが、まず間違いなくグレーゾーンです。

つまり最大手のストアが政府の規制に従いガチガチの体制で鈍重に進むのを尻目に身軽なスタートアップがグレーゾーンを駆け抜けるという、よくある光景が中国でも繰り広げられているわけです。

但しそういった運営ですから他社の最大手ストアが正式にリリースしているオンラインゲームなどは配信出来ません。そのため取った戦略がインディゲームのプッシュでした。

現在はTAPTAPにつられてかTencentや360でもインディゲーム・オフラインゲームのプッシュが始まっています。本格的な流行がくるのは来年からだと思いますが、ある意味今年は中国のモバイルインディゲーム元年といえるかもしれません。

ダモクレスの剣

TAPTAPは自称MAU1000万、前記の図によれば231万ですが、中国の10代や20代の中では普通に有名なストアとのことらしいです。

しかしTAPTAPの中身を見てみるとあることに気付きます。(日本語版もあります)

日本手游下载榜|日本手游排行榜 | TapTap 发现好游戏

GooglePlayでリリースされているゲームがそっくりそのまま配信(転載)されているんですね。これはPujia8スタジオの記事でも書きましたが、現在の中国の法体系では違法ではないそうです。

しかし最大手はそういうことはしません。なぜならいつ取り締まりの対象になるかわからないからです。中国では昨日まで合法だったことが当局の舌先三寸で次の日から違法になる、遡って取り締まれるということも珍しいことではありません。

これを中国ユーザーは「ダモクレスの剣」と呼んでいます。古代ヨーロッパの故事由来の言葉ですね。

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最大手の企業、特にテンセントなどは今や世界一のゲーム企業となり中国を代表する会社ですから、迂闊なことは出来ませんし、他社も大手は万が一に備え安全マージンをとります。

そのため違法でなないが、グレーゾーン(ダモクレスの剣)なので大手はやっていない事をスタートアップが気にせずガンガンやる、といった風景が中国では日常茶飯事となります。

ちなみに中国では2015年ゲーム禁制令が緩和されましたがコアゲーマーはまったく安心していないようです。緩和されても審査は依然としてあり、その審査を通過出来るゲームが少なすぎる + 国が「禁制令を緩和したんだからもう今までみたいにゲーム密輸のお目こぼしはせず、厳しく取り締まるよ」というコンボで緩和前よりも遊べるゲームがむしろ少なくなってしまう可能性を危惧しているようです。

数日で10万DL

突然ですがタイニーアドベンチャーというとても面白くて可愛いゲームがあります。

タイニーアドベンチャー(iOS)

タイニーアドベンチャー(Android)

日本の個人制作者が開発したゲームです。非常の作り込まれた品質の高い作品なのですが、残念なことに日本のAndroidストアではあまりDL数が伸びていません。皆さんぜひ遊んで見て下さい。

ところでこのタイニーアドベンチャーがTAPTAPに転載されています。

現時点でDL数177282回です。タイニーアドベンチャーは8月リリースされました、もし日本なら一月でDL数17万というとかなりブレイクしたといえます。

しかし中国ではこの数字はそれほどインパクトのあるものではありません。もちろんキチンと作り込まれたクオリティの高いゲームでないと個人開発だろうとこの数字は達成出来ません。しかし逆に日本ではどんなに品質の高いゲームでも個人開発だと1000DL程度で終わってしまったりします。

このことからも中国での規模感が分かると思います。以前までは個人開発ゲームをプレイするなんて一部のコアなユーザーだけでした。しかし今、中国では大作ゲーム疲れが見え始め、お手軽なインディゲームが注目されようとしています。

ただし儲かりません

折角インディゲームがたくさんDLされ遊んで貰える環境が整ってきた中国Androidストアですが、まだまだ開発者にとってはあまり儲からないようです。

特に外国の開発者にとってはそれが顕著です。

中国ではGooglePlayが規制されているため、通常のストア誘導広告とは違う形の広告が必要です。いくつか現地に対応したアドネットワークがあるにはあるのですが、それでも日本と比べると著しく収益性が低くなります。課金アイテムも売れません。

一応、課金アイテムの販売にはアリペイ(支付宝)という方法もあるにはあるのですが、日本の一開発者が導入するのはあまり現実的ではないようです。

但し以下のような取り組みもありますし、これからまた状況は変わってくると思います。

jp.gamesindustry.biz

終わりに 

中国ではインディゲーム市場が盛り上がり、Pujia8スタジオのように日本のゲームを無償でローカライズする企業なども出てきました。(無償ローカライズについては以下の記事を読んで下さい)
しかしまだまだメインはPCでもモバイルでもオンラインゲームです。

ただ、今後どうなるかは分かりません。もしかしたら中国は世界一のモバイルインディゲーム市場となり、中国産の面白い個人開発ゲームがたくさん登場し、日本のインディーもつられて盛り上がり、今以上に面白いゲームがたくさん遊べる日がいつか来るかもしれません。

そんな日が来ると良いですね。