Hirayaブログ

@fumi_mdのブログです。たまに何かを書くと思います。

中国人オタクから見た日本アニメの人気、国内アニメ配信事情と国産アニメのこれから

今回は中国のアニメ事情について書きたいと思います。

といっても主に以下の記事に関する事柄です。

togetter.com

読めばこれからの話がより分かりやすいでしょうが、読んでいなくても大丈夫だとは思います。

ここからは全て中国の友人やアニメファンに聞いたお話です。冗長なので省きますが、各文末に「~と友人が言っていました」という言葉入っていると思って読んで貰えると嬉しいです。

中国の動画サイトTop10

中国には多くの動画サイトがあります。以下が主要なプレイヤーです。

順位 プラットフォーム 親会社
1 优酷(Youku) アリババ
2 爱奇艺(iQIYi) 百度(Baidu)
3 腾讯视频(TencentVideo) テンセント
4 搜狐视频(sohu)  
5 乐视视频(LeTV) 楽視グループ
6 土豆(Tudou) アリババ
7 央视网(CNTV) 国営テレビ
8 PP视频(PPTV)  
9 芒果TV(MangoTV)  
10 哔哩哔哩(bilibili)  

これに加えて、チャイナモバイル傘下 のmigu.cnや奥飛傘下のAcfun.cnなどといった動画サイトがあり、これらの企業が日夜、14億の人口を抱える中国市場で覇を競っているわけです。

動画サイトのビジネスモデル

これらの動画サイトは殆どが同じビジネスモデルをとっています。

会員には一般会員とプレミア会員があり、月額料金を払ってプレミア会員になると様々な特典があるというものです。ニコニコ動画などと同じですね。

一番人気のあるコンテンツはドラマ

フリーミアムモデルで収益をあげる以上、どうやってプレミア会員を増やすかが重要になってきます。

まず思いつくのはコンテンツの拡充です、動画サイトの本道ですね。

中国で一番人気のあるコンテンツは国内ドラマですから、当然この部分には多くの会社が力を入れています。

そして次に人気のあるジャンルがアニメです。

テンセントはどうしたか

中国の30代以下の世代は若い頃から日本のアニメーションに触れてきた世代です。ティーンにもオタクといわれる人は多く、アニメというコンテンツには間違いなく人を集める力がありました。

業界3位のテンセントビデオはそこに目をつけました。二次元の人気が凄いと聞きつけると、豊富な資金力で作品を囲い込んだわけです。

若い世代に人気を集めるジャパニーズアニメで人を誘い込めば、プレミア会員の大幅増加が望める目論見でした。

テンセントは失敗した

プレミア会員は増えませんでした。

原因はオタクといわれる人たちの帰属心が思ったよりも強かったことです。

テンセントがアニメで集客を試みたその頃、もう世間ではアニメといえばビリビリという図式が出来上がっていたのです。

例えば10億回の再生回数を誇る「全職高手」というアニメーション作品がテンセントビデオにはあります。この作品はテンセントの独占配信ですから、視聴するには絶対にサイトを訪れる必要があります。しかし「全職高手」を見るためにテンセントにやってきたユーザーは目当てのものを見ればそれで満足しプレミア会員になることはなかったのです。

つまりアニメに力を入れてはみたものの思ったほどの貢献が無かったというわけです。

アニメはビリビリ一強

アニメといえばビリビリ。ビリビリといえばアニメです。もはや一強といって差し支えありません。

ビリビリはその他の動画サイトに比べソーシャルサイト的な側面が強く、ユーザー愛の深い傾向があります。多少子供向けだとか年齢層が低いだとかも言われていますが、逆に言うと子供に人気のサイトということでもあります。

アニメ分野には「Acfun」というビリビリよりも歴史が長く、かつてはビリビリのライバル視された動画サイトもあったのですが、奥飛による買収など様々な出来事を経てビリビリとAcfunには大きな差が出来てしまいました。

今のAcfunは誤解を恐れずにいうと日本における「ふたば」のような独自の文化圏を持つある意味排他的なサイトとなっています。

ちなみに奥飛という企業はかつてミニ四駆ウルトラマンのおもちゃを作っていた中国版タミヤのような企業です。おもちゃ業界が縮小した分、二次元分野に進出して大きな存在感を見せています。

ビリビリにないアニメは見ない

中国は違法サイトまみれ、著作権なんて概念はなく、みんな好き勝手やっている。と、そんな風に思っている人もいるかもしれませんが、それも大分昔の話です。

アニメに限っても今の中国では正規の方法で視聴する人が殆どで、違法・脱法サイトもあるにはありますが、かつてのようにメジャーではありません。

ビリビリユーザーの中には、そもそもビリビリにないアニメは面倒なので全く見ないし見たくもない、と考える人までいます。

これには中国の動画サイトユーザーの多くは公式モバイルアプリを使って視聴しているため、その他の方法で視聴するのが煩わしいという理由もあります。

iQIYiとYoukuの戦略

アニメに力を入れてみたものの思ったようにプレミア会員が増えなかったのはテンセントだけではありません。

ビリビリの牙城を崩せなかった彼らTOP2が取った次の戦略は何だったか。

とても簡単です、プレミア限定独占配信のアニメを増やしました。

こうしてしまえば、その作品を見たいユーザーはプレミア会員になるしかありません。ちなみにiQIYiのプレミア限定動画を自サイトに紐付け無料で見れるようにしたビリビリは当然のごとく訴えられ、その後自重するようになりました。

テンセントの戦略

同じくビリビリを切り崩せなかったテンセントですが、その戦略は上位二社とは違いました。

元々テンセントという企業は多くの分野に投資しており、アニメやゲームなどサブカルチャー界隈でテンセントが一枚噛んでいない分野はないというくらい様々な所でスポンサーをしています。

テンセントはそうした川上から川下まで知り尽くした強みを生かし、海外のコンテンツを買ってくるのではなく自国のアニメ産業を育てるという戦略を取りました。

中国産原作の少なさ

中国と日本の一番の違いは何か、その一つがアニメーションの原作となるべき素材の多寡です。

日本には一国だけで世界の半分以上をゆうに占める巨大な漫画市場や小説(ライトノベル)、ゲームなどがあり原作には事欠きません。

しかし中国にはそれがありません、そのためテンセントは自国のクリエイターを育てる所からはじめることにしました。

テンセントが国内クリエイターを支援するのは原作からアニメまで全てを国内・自社IPで賄うサイクルを作りたいからというわけですね。

ビリビリが勝った?

ここまでの話をまとめると、テンセントが日本アニメの配信数を減らして国産アニメに力を入れたのは日本アニメの人気が落ちたからではなく、ビジネス上の観点からということです。

2017年に入った時点でテンセントがジャパニメーション配信競争からほぼ撤退しているというのは事実で、2018年1~3月期の配信予定は「CCさくら」「刀剣乱舞」のみです。

その他の内訳は、中国で配信予定の日本アニメ全41作品中ビリビリが28作品を配信、iQIYiがプレミア限定で8作品、Youkuがプレミア限定で4作品を配信することになっているので、3社合計で40作品、ほぼ全てを網羅しているということですね。

日本のアニメの人気が落ちて、中国産アニメの人気が上がったわけではありません。見方によってはビリビリがアニメ争奪戦で勝利したともいえます。 

中国の国産アニメは人気なのか

では、テンセントが力をいれている純国産アニメに対しこれまで日本アニメを楽しんで来た層はどう思っているのでしょう。

結論からいうと、あまり期待していません。

というのもやはり、中国制作アニメというのは日本のトップレベルアニメと比べると演出や作画が劣っているように思えてしまうのです。

テンセントで10億回再生されたという「全職高手」も、このシリーズは非常に人気が高くおそらく予算も潤沢に与えられた作品だったのですが、中国制作にしてはよく出来ているというような評価が主で、あまり芳しくない評判も少なくありませんでした。

加えてこの10億再生という数字ですが上にも書いたように独占配信だからこそという一面があり、例えば「終わりのセラフ」は8400万再生なのですが、こちらはビリビリなどでも配信されており、独占ではありません。

ただし、そもそも中国のユーザーは国内動画サイトに表示されている再生数を信じていないという問題もあり、再生数と人気度合いを結びつけることに抵抗を感じる人も少なくありません。曰く「再生数なんて運営が0を一つ足せば10倍になるんだよ」とのことです。 

日本のアニメ会社制作が売りにはならないというのはホント

中国原作もののアニメ化に限った話ですが、日本のアニメ会社が制作すると変なものが出来上がるので喜ばしくないとの声があるのは確かです。

ハリウッドが日本のマンガを映画化するようなものでしょうか。細かい文化の差異から大きな違和感を抱いてしまうようです。

しかしだからといって中国のアニメ会社が制作すれば大喜びというわけでも無い所が悩ましい部分です。つまり経験の少なさから自国の文化や生活の表現を上手くアニメ風に変換する手法が未だに生み出せていないということかもしれません。 

オタクの世界はつながっている

2017年1~3月期、中国で一番流行ったアニメは何だったでしょうか、答えは簡単「けものフレンズ」です。「小林さんちのメイドラゴン」も人気でしたがけものフレンズには及びませんでした。中国でも「君は○○のフレンズなんだね」というミームは流行っていたんです。なので監督降板騒動についても逐一中国では話題になっていました。

けものフレンズ」だけではありません。ゲームでもアニメでもインタビューも含めてその多くが瞬時に翻訳されシェアされます。

日本の流行と中国の流行は大差ありません。リアルタイムで同期しています。世界はつながっているんですね。 そんな状態で日本のアニメがいきなりなくなると言われたらアニメファンは納得出来るでしょうか、そのような問は現実的ではありません。

結局日本のアニメは変わらず人気

優劣をつけるのは良くないのかもしれませんが、日本のアニメと中国のアニメを比べることは洋画と邦画を比べることに似ています。邦画ファンの人々も黒澤・小津の時代ならともかく現代の洋画と邦画を比べ、洋画>邦画という不等号に文句を言う人は殆どいないでしょう。

もちろん個々の作品を見れば、名作も少なくありません。例えば日本の弱い3D分野ではもう世界に通じるクオリティの作品もあります。しかし全体をみれば質の差はやはりあるように思います。 

アニメもゲームも中国作品のクオリティは凄いスピードで成長しています。それは事実なのですが、まだまだ至らない部分もあるのです。

いつか中国のレベルも上がり切磋琢磨してより面白い作品が出来れば良いなと思います。