Hirayaブログ

@fumi_mdのブログです。たまに何かを書くと思います。

ゲームを作ったらハリウッドから映画化オファーが来た話

最初に

ブログの更新は凄い久々ですね
殆どの方は知らないと思いますが僕は2017年8月に「7年後で待ってる」というiOS・Android向けゲームをリリースしました

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7年後で待ってる(Nintendo Switch)

7年後で待ってる(iOS)

7年後で待ってる(Android)

そこから3年半、アプリのDL数は600万まで伸びました
そして記事のタイトル通り海外でヒットしたり映像化オファーが来たりとあれやこれやあったわけですが、そこら辺を宣伝も兼ねてちょっと色々書こうと思うので良かったら読んでいって下さい

 

「7年後で待ってる」を制作する前

ゲーム制作を始めたのは2016年です
実はその頃、個人がスマホゲームを作って食べていくことに僕は否定的でした
技術的な難易度が非常に高い上、商業的な成功はそれ以上に難しいと思っていたからです
というのも当時、既に素人によるゲームアプリバブルは弾けていて、スマホゲーム市場は完全に大企業が札束で殴り合うレッドオーシャンになっていたました*1

それでも僕が参入したのには2つの理由があります

ひとつは単純にゲームを作ってみたかったから
作ってみたいですよね!ゲーム
勝手な想像ですが誰でも人生で一度は自分だけのオリジナルゲームを妄想して一日を潰したり、ノートに設定を書きなぐって何ページもダメにした日があると信じています

6円の稼ぎ

そしてもうひとつは試しに作ってみたwebサービスが広告収入を6円しか稼ぎ出さなかったから、です
実はゲームを作る以前、僕は友人とwebサービスを作っていました、といっても1年にも満たない短い期間ですしキチンとしたものは作っていないのですが
それでも6円は驚きました
これが0円だったらwebサービス開発を続けていたかもしれません
webサービスどころかプログラミングすらズブの素人だった僕らは四苦八苦し、もがき苦しみながらクラウドサーバーを建て良く分からないままCakePHP*2を動かし、雰囲気でSwift*3のコードを書きながらAppleにお布施をしてまでwebサービスを作ったのに……
6円という数字は僕らの心を折るのには十分な数字でした
ここで思ったんです
「なんか、webサービスとゲーム開発って難易度あまり変わら無さそうだな」と、そして元々ゲーム制作に乗り気だった友人に同意する形で僕らはゲーム開発に舵を切りました

UnityとCocos2d

当時、ゲームエンジンはUnityとCocos2dの2択でした*4
現在の猫も杓子もUnity、アニメ制作も建築設計もUnityみたいな状況からは考えられないかもしれませんがそういう時代がありました
僕らは「cocos2dは環境の作り方がよく分からん、というかHello worldすらできん、一言でいうと全く意味が分からん」という軽薄な理由でUnityを選んだわけですが、結果的には正解でした*5
Unityはexeアイコンをダブルクリックしてprint("hello world")するだけです

Unityのチュートリアルを終えた僕らは試しにネット対戦型のアクションゲームを作ってみます*6
少し話が逸れるのですがUnityのチュートリアルって魔法みたいです
大多数のゲーム制作未経験者にとってゲームって何をどう作ったら良いのか意味不明、取っ掛かりすら分からない未知の領域だと思います
それがUnityのチュートリアルを終えスターソルジャーの高解像度版みたいな縦スクロールシューティングを作り終えると錯覚するんですよ
「あれ、ゲームってこんなに簡単に出来るんだ!」と
僕らも当然錯覚しました、でもゲームが作れることと出来上がったゲームが面白いかどうかには何の関係も無いんですよね
ということで「お試しだから…」と念じながら僕らが作った最初のゲームは全然ヒットしませんでした

1000円って凄い

それでも確か1000円くらいは稼いでくれたと思います
1000円はインパクトが大きいですよね、何しろ比較対象が6円ですから、都合150倍です
僕がゲーム制作に夢を抱くには十分な数字でした

ということで本格的にゲーム制作を始める、はずったのですが……
最初のゲームを作った後、僕らはなぜか分業制ならぬ別業制になりました
「お試しだから……」の言い訳がなくなった僕らはそれぞれの企画に絶対の自信が持てず、100%のリソースを割く度胸がなかったのでとりあえずという形で別々にゲームを作ることにしたんですね
これは今でも後悔しています

そうして僕が次に作ったのが「いちばん良い名前をたのむ」という診断ゲームみたいなアプリです
このゲームは今でもDL出来ます
良かったら遊んでみて下さい

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いちばん良い名前をたのむ(iOS)

いちばん良い名前をたのむ(Android)


ちょっとここまでが予想以上に長くなったのでここから「7年後で待ってる」完成までを箇条書きで要約します

  • 貯金の残高的に次に作れるのが最後のゲームっぽかったので昔から作りたかったシナリオ重視のゲームを作ろうと決めます
  • ちょうど半分くらいまで作った頃、友人が離脱して就職しました
  • 別々のゲームを作っているとはいえ机を並べてずっと一緒にやって来たので死ぬほど寂しかったです
  • 僕も「7年後で待ってる」を作り終えたら就職しようと決めました
  • それから半年後「7年後で待ってる」が完成しました

結果、制作に1年かかったわけですが作り始めた時はこんなに掛かるとは思っておらず、リリースした日には貯金が2万円ちょっとしか残っていませんでした
築50年を超える古びた賃貸だったので何とか次の家賃くらいは払えましたし、たしか財布には1万以上あって「これなら光熱費も食費も二ヶ月分は大丈夫だな!」*7みたいな謎の方程式が頭の中でたっていましたが今考えると限界もいいとこです
というかこんなに切羽詰まってたんですね、この記事を書くにあたって預金通帳を引っ張り出してきたわけですが、自分でもびっくりしました

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ネット料金と電話しか出来ないケータイの料金が引き落とされた通帳

(7年後で待ってるリリースは平成29年8月4日)

僕は自分が一度就職やバイトなんかをしてしまうと、片手間でゲーム制作なんて出来ない人間であること、つまりもう二度とこのゲームを完成させられなくなる事が分かっていたので多分ホントの瀬戸際まで頑張っていたんだと思います
ということで、一応ゲームは出来た訳ですがゲーム開発自体はここでもうお終い、リタイアでした

「7年後で待ってる」完成

さてリリースに際して行った施策ですが殆どありません
最近、以下のプレスリリースに関する記事が話題になっていまいたが

僕が送ったプレスリリースを掲載してくれるメディアは一つもありませんでした
書き方が悪かったのかなあ、今でもちょっと不思議です*8

togetter.com

当時ツイッターもブログもやっていなかったので本当にゼロスタートになる所でしたが、一応誰でも登録出来る事前予約サイトのおかげで100人くらいはリリース時にプレイしてくれたと思います
この100人って数字は非常に大事です
上には書いていないのですが最初のお試しゲームをリリースした時、同時にスピンオフみたいなミニゲームを別アプリとして宣伝も事前予約も一切なしでリリースしたことがあります
この時は本当に無でした
よく好きの反対は無関心とか言いますが、絶賛レビューの反対も酷評レビューや罵倒レビューなんかじゃないなと悟った瞬間です
作ったゲームが誰にもプレイされず、ただネットの海をプカプカと浮かんでる様を眺めるほど悲しい事ってないです

リリース

といっても「7年後で待ってる」をリリースする日は、感想が怖くてひたすたひたいを指でトントンしていましたし*9
リリース後、最初に管理者画面でレビューの閲覧ボタンをクリックする時はリアルに手が震えてなかなか評価を見れませんでした
しかし蓋を開けてみると殆どが高評価、好意的なレビューで評価値は4.9を超えていました
嬉しかったです

ただし評価が高いからといってダウンロードが伸びるわけではありません
リリース直後は中々DLが増えませんでした
たしか1週間後くらいに有名なゲーム実況者さんがプレイ動画をあげてくれたり、いくつかのネットゲームメディアが紹介記事を書いてくれたのですがDL的にはほぼ無風でした

ただ僕はこの時、自分の中では半ば終わった話であるゲームのことなんかよりもバイト探しの方がよっぽど大事でリリース後の動向にはあまり関心がなかった記憶があります

急上昇ランキング

しかし、ここでなぜか「7年後で待ってる」はGooglePlayの急上昇ゲームランキングにのります
僕は「Twitterで感想をつぶやいている人が何か増えてるな…」と思い、原因を探りそれに気付きました
どういったアルゴリズムなのかは謎です、おそらく評価が良かったからかなと思っているのですが(ずっと4.9を維持していました)「7年後で待ってる」は急上昇ランキング100位くらいに登場しました
そしてそこから1週間程かけジリジリとランキングをあげ最高時は2位となりその後しばらく10位以内をうろうろしていました

このおかげでDLが急増し、広告収益も増えてとりあえずバイトをせずとも家賃が払えるようになりました*10

DLC?

実は上でゲームが完成したと書きましたが、厳密にいうと「7年後で待ってる」はまだ未完成でした
現在は実装されている課金部分が丸々なかったんです
レビューの高評価と不労所得に気を良くした僕は追加部分の作成に取り掛かりました
いわゆるDLCですね

最初のメール

そんなこんなでバイト探しを完全にやめた頃、一通のメールが届きました
差出人は中国のゲームデベロッパーを名乗っておりゲームを中国語に翻訳したいとの申し出だったのですが、これは本当にツッコミどころ満載のメールでした*11
というか差出人の名前でググると一番上に「中国の詐欺集団!コイツラに気を付けろ!」みたいなページが出てくるんですよ
びっくりしましたね

この時の経緯は以下の記事にまとめています

fumi-md.hatenablog.com

短くまとめると

  • メールの差出人は中国の漢化組と呼ばれる元非合法集団、Pujia8だった
  • 今は真っ当な企業に生まれ変わって日本と中国の橋渡しをしたいと思っているが誰も相手にしてくれないらしい
  • 過去の行いは反省しているので、ゲームを翻訳させてくれないかとの事
  • 長文で何回もメールのやり取りをした結果、なんか信用できそうだったので結局翻訳を頼んだ

以上です

ちなみに僕はPujia8公式サイトや契約書の変な日本語が気になりすぎて無償でほぼ全文校正していました*12
今でもたまに上の記事を読んだ日本のゲームクリエイターさんから*13Pujia8絡みで相談を貰ったりしますが、お陰?かは分かりませんが結構上手くいっているようです
bilibiliなどの例もありますし、将来この企業が成功したら「昔あの企業は―」と自慢したいので頑張って欲しいです

中国語版リリース

結果ですが、翻訳をお願いしたことは大成功でした
程なくして「7年後で待ってる」は中国でリリースされたわけですが、日本以上にスマッシュヒットしました

中国版はランキングに入ったりAppStoreの「今日のゲーム」で取り上げてもらったこともあるんですが、その際はインプレッション(アプリの表示回数)がバグり数日で2億を超えました

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針みたいなグラフ

ちなみにゲームをプレイして貰えると分かるのですが、Appleの人が作ったこの画像の人選は絶妙に謎です*14

あとはヒットしたおかげか、いくつかのゲーム賞もいただけました
こんな感じですが、僕は出席してません、というか授賞式には呼ばれてませんし日時も場所も知りませんでした
行きたかったなあ

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ちなみに後からトロフィーだけもらいました
今日本にいて近くまで来てるから取りに来て!と言われたので普通に取りに行きました

めっちゃ嬉しかったです👍

この頃、たしか200万DLくらいだったと思います
もちろん中国ブーストのおかげです
本当に嬉しい限りなのですが、僕の懐事情はあまり暖かくありませんでした
というのも中国のAndroid版の広告表示がうまく出来ておらず収益は全くのゼロだったからです*15
中国のユーザーさんが「広告もないし本当にいいゲーム!」みたいな感想を書いていましたが広告はあるんです……あるんですよ……

多言語展開

僕は元々、多国語展開に興味がありました
アプリゲームなんて多国語展開してなんぼくらいに思ってもいたんですが文字数がとにかく多いADVは翻訳コストが高く、半ば諦めていました
しかし中国でのヒットに気を良くした僕は更に多言語でのゲームリリースを決意します
その数、14言語!
普通よっぽどの有名作品でも無い限りテキストの多いゲームはそんなにローカライズはしないのですが、ローカライズが少ないということはライバルが少ないということ!
というわけで、英語、ポルトガル語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語、アラビア語、ヒンディー語、タイ語、インドネシア語、韓国語、(中国語、日本語)にローカライズする事にしました*16
このうちヒンディー語は翻訳家が見つからず、アラビア語はTwitter経由で見つかったものの報酬の半分を払ったら音信不通になったので実現しませんでしたが、代わりにトルコ語が増えて現在13言語の翻訳版があります
アラビア語以外にも一部の言語ではグーグル翻訳そのままのものを納品され、確認不足で気付かずに支払いを行ってしまい逃げられるなど色々なトラブルがありました
更に低価格が売りの翻訳家さんに頼んだため半分くらいの言語では翻訳の質が明らかにネイティブの文章ではないと一目で分かるくらいには酷いらしく、ゲームの評価も一気に4.6まで下がってしまいました
収益的にもペイしたのは中国語と英語だけという感じです
ただ色々な国のユーザーからレビューを貰えることは本当に嬉しく、結果オーライ、総合的にはやって良かったと思っています

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タイ語の実況動画、ロシア語のお絵かき、フランス語の掲示板

二通目のメール

時系列を戻し、僕が翻訳家を探したりDLCの作成を行っている頃、またとあるメールが届きました
中身はなんと中国でのドラマ化オファーでした
詐欺だと思いましたね

冗談ではなく中国ではそういう著作権詐欺みたいなのが実際あるらしいんですよ
ちょうどタイムリーに中国の友人とそういう話をしていたのでホントにそう思いました
でもやっぱり気になりますよね、詐欺だ詐欺だと思いつつも無下には出来ないです
めちゃくちゃ丁寧な文章で返信しました
すると、ものすごくまともな内容の返信があり、二通目を返すときにはもう詐欺のことなんか忘れていました

疑心暗鬼が晴れたのにはもう一つの理由もあって、実は一つ目の映像会社と交渉中、更にもう一つのオファーが来たんですよ
しかもその会社は日本でも大人気のグルメ系ドラマを中国で配信している規模の大きいところでした

ここは契約上色々と話せないのですが、*17僕は結果的に一社目と契約を結びました
サラッと進みましたが中国でのドラマ化が決定したわけです、凄いですよね
僕が知る限りアプリ発の個人制作ゲームがドラマ化された例というのは国の内外を問わず聞いたことがありません*18
それはもう嬉しかったです

ハリウッド

そんなこんながちょうどDLCが完成して追加アップデートをした頃、「7年後で待ってる」リリースから4ヶ月後くらいの出来事です

それから少し経ち、雪が溶けてきた頃でした
タイトルにもある出来事が起こります
そう、ハリウッドからの映画化オファーです*19
これは流石に詐欺だとは思いませんでした、というか何か変なテンションだった記憶があります

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当時、たしか日本のアニメやマンガIPの映画化権をハリウッド企業が買い漁っているみたいなニュースがあり
それに対する「成功したのは比較的マイナーな"All you need is kill"くらいだよねー」みたいなツイートをTwitterで発見した僕は、スマホの画面を眺めながら「7年後で待ってるもそこに並ぶかも!」みたいな性格の悪い妄想に耽っていたのをよく憶えています

オファーをくれたハリウッド企業は準メジャーと呼ばれるようなスタジオでした
アカデミー作品賞もとっていて世界的な映画会社と呼んで良い企業でした
少しやりとりをして分かったことですがそのスタジオは親会社が中国系だったので、おそらく中国でのスマッシュヒットを受け、何処か伝いに評判が行き渡って、という流れかなと推測しています*20

メールの相手は最初の担当者からすぐに上級役員のような肩書の人に変わり、悪くないやりとりが続いていました
しかし唐突に交渉は終わります

「日本・ハリウッドの非常に有名なプロデューサーと話をしている、数週間後には必ず良い返事が出来る」というようなメールが最後でした
次に来たメールは「会社の方針が変わったので契約は出来ない、しかし私個人のこの作品に対する思いは――」といったものでした
やっぱり世の中そんなに上手く出来ていませんよね
ハリウッドの有名スタジオといっても僕が知らないだけで小規模公開の低予算作品などもたくさんつくっているのでしょうし、実際に制作される作品の何倍、もしくは何十倍も声掛けしてるのでしょう
真相は分かりませんが「有名Pと―」などの話もある種のリップ・サービスで実際は殆ど企画は進んでいなかったんじゃないかなと思っています

良くないことは続く

その後も良くないことは続きました
まず中国での映像化が遅々として進みませんでした
加えて、この間も国内外からアニメ・ドラマ・映画と映像化オファーが片手では数え切れないくらいにあったのですが中国地域については僕に権利がなかったため交渉出来ず、国内のものについても足かせになり成約までいきませんでした*21

今思えばハリウッドからのオファーも権利を買い戻しでもしない限り、現実的には契約が難しかったかもしれません
基本的に個人開発者というのは交渉も全て自分でやらなければいけないわけですが、自らの権利や便益のみを声高に叫ぶ人と言うのは当然ながら嫌われるもので、自分の権利を自分で主張するというのは簡単なようで非常に難しいことです

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そんなこんなで2年がたった頃
また一つオファーが来ました

中国のかなりの大手らしいです
曰く中国劇場版アニメ史上過去最高の制作費をかけアニメ映画を制作したいとのことでした、ホントに?
この2年、ずっと何かしらの映像化に関する交渉ややり取りをしていたのものの良い結果に結びついた事がなかったので、僕はなんとなく次も無理だろうなと思っていました

しかし先方はかなり本気らしく、契約上の問題も解決し僕は北京まで飛ぶこととなります
次こそはと思いました

そこでコロナです

話はなくなりました
直接、コロナが理由とは言われていませんが……
当然北京にも行けませんでした
ちょうど1年前の今頃ですね

その他いろいろ

そこから世間はコロナやオリンピックや色々あって今に至るわけですが振り返ると上に書いたこと以外にも色々ありました

  • まず直近ではOPPOとVivoの賞を頂いたり
  • かなり前ですが○○経済の方から取材したいと言われ、取材用に色々まとめて待っていたのになぜかその後無視され徒労に終わったり
  • G○○○○eの市場調査に協力し、謝礼とグッズ!を貰えるはずが何度か連絡しても忘れられ、別の社員の方に平謝りされたり*22
  • 結局、最初のドラマ化の話が制作されないまま契約期間を満了したり……
  • 嬉しいことも当然あって、ゲームのシナリオを評価してもらえたのか、シナリオ単独のお仕事を頂けたり
  • 2019年には中国のゲーム用許認可番号である「版号」を取得したり(2019年の版号は180だけでそのうち7年後で待ってるが2つ!)

中でも思い出深いのは「ファミ通」に自分のタイトルが掲載された件で
ゲーム制作者としては、やっぱりあのファミ通の誌面に自分のタイトルが乗ることって一つの夢だと思います
僕はコレが一応叶ったわけですが「一応」の枕詞がある理由は以下の写真を見てもらえれば分かると思います

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インタビュー中にタイトルが出ただけですね……悲しい
でもやっぱり嬉しいですからなんとか探して買いました(発売後しばらくしてから知人に教えてもらったので書店にはもうありませんでした)

その他の嬉しかったこと

もし他に良かったこと何かありますかと聞かれるなら、ゲームを出すとご飯を奢ってもらえるかもしれないということでしょうか
ゲームをリリースすると沢山の広告系企業からメールが来ますが、DLが順調に増えると直接お会いしましょうというお誘いも増えます
僕は最初、駅中のコーヒーショップで一杯奢ってもらう所から始まったのですが、東京駅横のカフェでいちごのショートケーキセット → 大阪駅の駅ビルで鴨のランチプレート → 中之島のレストランで豪華なディナーと順調にグレードアップしていきました
最後のは僕にとって人生で一番豪華な夕食でしたし、今でもそうです
本当にありがとうございます

嬉しい違いだとユーザーさんからもらった声で記憶に残っているのは、もちろん掛け値無しでホントにどれも嬉しいんですが「人生で初めてアプリに課金した」みたいな感想ですね
これは特に嬉しかった*23

後悔

逆に後悔してる部分ですが
これについては最近特に思っていることがあります

僕はマーケティングとか宣伝みたいなものを全然してなくて、600万DLという数字も200万から告知をサボっていました

ちょっと前に個人ゲーム開発者関係でバズった記事がいくつかあると思いますが、やっぱりそういうものを読んでいてもうちょっとガツガツ宣伝とかいろいろやっておけばよかったなと思っています*24
僕はホントに運が良かっただけで、たくさんのユーザーさんに遊んで貰えたわけですが、結局運の良さに甘えているだけでやれる事をちゃんとやらないのは怠慢だなと
ハリウッドの話なんかもNDAも結んでいないですし破断になった時点で全然公言出来たんですが、今までは家族友人含め誰にも言っておらず、お話したのは仕事関係の二人だけでした
これも自分を実像以上に大きく見せてるみたいでイヤらしいと思ってしまったからです、でも個人開発で食べていくならそれくらいイヤらしくないとダメですよね

収益

ちなみに「600万DLもあると相当儲かってるんでしょ」と言われたりします
アプリゲーム界隈では一つの指標として1DLあたりの収益単価みたいなものがよく使われますが、個人開発で1DLあたり100円超えてるとおおーって感じだと個人的には思います
でも他の開発者さんに聞いてみるとこれって結構超えてたりするんですよ
なので当然、600万DLだと1DL100円で…みたいな話になってきますよね
でも僕のゲームって例えば中国では長い間、収益ゼロでしたし、主要地域以外ではDL単価が1円以下とかそんな感じなんです*25
これから個人でゲーム開発頑張るぞー!って人のためにも、ゲームで一発当てて億ション買いました!みたいな豪快ことを言いたいんですが、僕の儲けだと中古のマンションすら全然手が届きません……

本題です

でもホントに良いこともたくさんあって
例えば最近Switch版がリリースされました

やった!

というかこの記事の本題ってこれなんですよ!
この事を宣伝したくてこんなに長々とずっと書いていたんです!

store-jp.nintendo.com

コンシューマーでゲームを出せるってやっぱりすごく嬉しいです
DL専用ではありますが、また一つ夢が叶いました

ということで皆さん、「7年後で待ってる」Switch版、ぜひよろしくお願いします

以上

と思ったんですが、このブログを書くにあたって、宣伝のために嘘を―とか色々言われると胃がキリキリして何も手につかなくなりそうだし僕には耐えられなさそうなので、特にハリウット周りのことについて昔のメールを読み返したり確認していたのですが
そうすると驚きの事実がありました

僕がやりとりをしていたスタジオですが、あの最後の「数週間後には良い結果が―」メールの1ヶ月後、破産していたんですよ
びっくりしました

ということはあのメールも社交辞令じゃなかったってことでしょうか
相談されてた非常に有名プロデューサーって誰なんでしょう、教えて下さい!

と、この辺で本当におしまいにしたいと思います

よかったらSwitch版「7年後で待ってる」買ってもらえると嬉しいです!!
そして、面白かったら周りの人に宣伝して貰えると更にうれしいです!

あと、メディアミックスのオファーもお待ちしてます!*26

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ファンの方が作ってくれた可愛い人形です

よかったら

記事とは関係ないのですが
一人でゲームをつくることに限界を感じているので、一緒にゲームを作ってくれるという方をひっそり募集します
一応「7年後で待ってる」はBGM以外全て自分でやったのですが、僕の売りはシナリオかなと思っているので餅は餅屋と言いますし、プログラミングやイラスト・CG、音楽に明るい方だと嬉しいです*27
企画、シナリオ以外もUIやデザイン、ゲーム演出、プログラミングなど完全な素人よりは知識もあって円滑なコミュニーケーションの役には立つと思います

もしも興味のある方がいましたら下記のメッセージフォームかTwitterのDMなりでご連絡下さい

CONTACT | Hiraya Space

twitter.com

よろしくお願いします

*1:有名な個人やインディもいたのですが、昔のように広告を全面に押し出した低クオリティのゲームがランキングに入ることはなくなっていました

*2:フロントはReact+Reduxでした

*3:ここは友人の担当だったので僕は今でもネイティブアプリはよく分かりません

*4:3DではUEもありました

*5:追記:読み返したのですがCocos2dユーザーの方にはちょっと感じ悪いですね、すみません、当時の僕らには単純にCocos2dのハードルが高かったという意味です

*6:ゼロヨンチャンプのミニゲームみたいな戦車が対戦するゲームでした

*7:電気毛布を巻いてうどんとパスタをひたすら食べていました

*8:ちゃんとネットで調べた通りに書き、発売日前に送ったのですが、アプリゲームは数が多いので取り上げてくれないのかもしれません

*9:事前予約サイトでリリース日や時間は決まっていたのでどれだけ怖くても延期出来ず、それが逆に良かったです

*10:振り込まれるまでには当然ラグがあるのでかなり厳しかったですが

*11:日本のランキングを見て僕のゲームを発見してくれたそうです

*12:校正というか起草もしていました

*13:Pujia8でググるとトップページに出てくる上に他にまともな情報がないので殆どの人が読んでいるみたいです

*14:素材をお渡しした所、こうなりました

*15:iOSの方は結構な収入がありました、それでもDL数からすると微々たるものです

*16:ネット上での言語使用人口に翻訳のしやすさなどを加味して決めました

*17:ここに限らずモラルやビジネスマナー上、もしくは時期的にまだ書くべきではないと判断したことは書いていません

*18:小規模開発を含めれば、僕が知っているのはHit-Pointさんの「ねこあつめ」です

*19:どんな風に連絡が来るのか気になると思いますが、普通にメールでHi!って来ます

*20:ここら辺、書くか悩みましたし最終的に消そうと思ったのですが調べた所ああいうオチだったので書くことにしました

*21:騙されて不利な契約を結ばされていたとかそういう事では全くないのですが、国際的な映像化契約というのは非常に難しいです。少ないながらネット上に雛形や資料などもありますが、例えば特定の条文を見てその有利不利は判断できても、そもそも商習慣上必要な条文が抜け落ちている場合などはそれに素人が気付くのは非常に難しいです

*22:まだ謝礼とグッズ貰ってないですよー

*23:他には「アニメ化してほしい」という感想が非常に多いのですが、海外の方は大抵「京アニで!」と言います、京都アニメーションさんのブランド力って凄いですね

*24:僕がやるのはTwitterでゲームのことを呟いてくれた方にイイね!しまくるくらいです

*25:一番単価が高いのは北米です、これはゲームに限らずアプリ開発者は皆さんそう言うと思います

*26:特にアニメ化!

*27:勝手な思い込みというかコレ自体が失礼な例えかもしれませんがシナリオしか出来ないって、当方ボーカル希望、楽器担当募集みたいな感じですみません

親友に出会う瞬間。アニメ「宇宙よりも遠い場所」が感動するのでぜひ見て欲しい。

宇宙よりも遠い場所」というアニメに凄く感動というか心を打たれてしまったんですが、何度も見返してる内に段々と「なんでこんなに胸に響くんだろう」と不思議になってきたので考えてみました。

宇宙よりも遠い場所」のストーリー

宇宙よりも遠い場所」のストーリーを一言で表してしまうと"女子高生達が南極を目指す話"です。"達"という所がポイントで、一人じゃなくて四人で目指すわけですが、南極なんて女子高生が簡単に行けるわけないですよね。ということで仲間と共に南極行きを叶えるため、色々と奔走するのが前半パートかなと思います。

で、実際の本編では一話、二話、三話と仲間が増えていく過程が描かれているんですが、これが凄く感動するんですよ。びっくりするくらいに。

何に感動したか

青春ものっていいですよね。友達と何かをがむしゃらにやってみるとか、退屈な日々を脱するために打ち込める目標を見つけるみたいな。これは脚本を手がける花田先生の代表作「ラブライブ」でも似た部分があると思います。もう少し遡ると「けいおん」とか。日常ものって枠でみられることも多いですけど主人公の唯が高校生になって本当に楽しめることを見つけるお話って側面もありますよね。

ということで「宇宙よりも遠い場所」も同じ感覚で見ていたんですけど、じゃあこの作品の感動ポイントもそこなのか?って問われると、ちょっと違うなと思ったんですよね。

だって本編でも言ってたんですけど、あの子達って友達じゃないんですよ。一緒に遊んだこともないどころか出会ったばかりだし、友達とか親友って言える程、親密な仲ではないんですよね。

じゃあ何に胸を打たれたのかっていうと「親友に出会えた瞬間を見せつけられてる事」なんですよ。

友達になる瞬間

ハチミツとクローバーっていう漫画で「人が恋に落ちる瞬間はじめて見た」っていう場面があるんですけど、たしか人が人に恋する瞬間なんて中々お目にかかれないですよね。それでも一目惚れに限れば結構あると思うんですよ。

じゃあ「友達になった瞬間」は?って言われると恋に落ちる瞬間以上に難しいんじゃないかなって。だって自分の友達で考えてみても、どの瞬間友達になったの?って言われるとはっきりいって分からないですよね。

宇宙よりも遠い場所」で感動する場面ってまさにその瞬間を描いているんですよ。

いきなり告白

三話のラスト、結月が扉を開くと三人が立っている場面。あのシーンを見て視聴者は思うんです「ああ、友達ができたんだ」って。なぜって、あの瞬間にもうラストまで見えてるんですよ、きっと色んな事をやり遂げて最後には掛替えのない親友になってるんだろうなって。

一話もそうです、主人公のマリが南極に行きたいって夢を持つ報瀬に「手伝えることはないか?」って聞くんですけど、報瀬は「一緒に行こう」って答える。これって、もう親密になるあらゆる段階をすっ飛ばしていきなり愛の告白をしてるみたいなものですよね。一緒に南極に行くなんて夢を共有したら友達どころが親友になるに決まってるじゃないですか。あそこは「まずはお付き合いから」って申し出てる相手にいきなり「結婚しよう」って告白してる場面だと思うんですよ。

一緒に走る仲間

二話も同じなんです、出会ったばかりの日向がマリや報瀬と一緒に三人で追っ手から逃げる場面。あそこも三人で走ってるから感動するんですよ。いくら青春っぽく走ってても一人だったら胸に響くものはない気がします、三人だからなんですよ、一緒に走る仲間がいるからこそ!

だってよく考えると別に日向は逃げる必要ないんですよ。捕まったところで実際殆ど何も知らないわけだし、ホントにさっき出会ったばかりなんだから。これは主人公のマリだってそうです。でも足を並べて走るんですよね、報瀬の「逃げて!」を合図に。

あの三人、特に日向はあの瞬間、本当の意味で二人の友達になったんですよ。南極に行くっていう報瀬の夢を共有して、一緒に息が切れるまで走って。

その、人と人が結ばれる、親友になる瞬間を見せられて感動してるんだなって。

梅干しと感動

いわば三国志の桃園の誓いみたいなものですよね。「死する日は同じ」じゃないけど、この先きっとあの三人は一人が走ったら他の二人も走るんですよ、決して一人だけを行かせたり置いていったりはしない、あの瞬間にそういう契を結んでるんですよ。言語化は上手く出来なくても、視聴者もみんな心でそれを理解してるから、あの疾走で感動するんです。馬鹿みたいに笑いながら一緒に全力疾走出来る友達を見つけた瞬間なんですよ。

こういう場面に感動するのって梅干しを見たら口に含まなくても唾液出るのと同じだと思うんです。提示された情報からある程度、結末が見えてる。梅干しの味を知っていればいる程、感動の幅も大きくなる。

絶対親友になる券

それで、もう一度三話に戻るんですけど、この最新話が一番そういう構図がわかりやすくなってるんですよね。今まで友達がいなかった結月に友達が出来る。別に「友達になろう!」とか「ズッ友だよ!」とかいう言葉は交わしてない。言葉でいくら友達とか仲間とかいったって疎遠になってしまうことは視聴者も経験で分かってる、誰でも知ってますから。

でも結月はそうじゃない。"絶対親友になる券"を貰ったんですよ、あの瞬間に。そこに視聴者は心を揺さぶられるんです。「ああ、この四人は絶対に親友になるな」って、自分の人生やら何やらと照らし合わせて分かってるんですよね。だって一緒に南極に行くんですから。

誰かの夢

この一二三話の友達になる瞬間の描写は演出的にも素晴らしく、それぞれ挿入歌が流れるんです。一話と三話はsayaという方の"ハルカトオク"っていう曲で、サビは「大きな夢を叶えたくて遥か遠く遠く」って歌詞なんですけど、この"夢"、大きな夢って報瀬の夢なんですよね。他の三人にとっては別に自分の夢じゃないんですよ。

他の三人は決して自分のやりたい事を見つけたわけじゃない、この人とだったら一緒に走りたいって思える友達を見つけたんですよ。

実際に大人になると夢が同じで気心もしれて一緒に遊びも仕事も出来るような仲間に出会うなんて中々難しいですよね。ワンピースでルフィがゾロやサンジ、ウソップと出会えたのは奇跡みたいなものですよ。だってある目的を達成したら、それが同時に全員の夢を達成することにも繋がってるんですから。

宇宙よりも遠い場所」はそうじゃないんですよね。あくまで南極に行くっていうのは報瀬の夢なんです。他の三人はそこに乗っかってるだけ。でもそれが逆に良いんですよ。他人の夢に自分の情熱やリソースを無邪気に仮託出来るのは青春の特権だと思うんです。いや、もしかしたら若い頃であってもそれが出来る人は少ないのかもしれません。

終わり

そういう身近なようで簡単には出来ないことをやっている登場人物達、彼女たちが友達になっていく過程、その道筋が一番凝縮された部分が一二三話のラストであって、そこに心を揺さぶられたんだなと。長くなりましたけど、そう思いました。

ということで「宇宙よりも遠い場所」、もしまだ未視聴の方がいたらぜひ見てほしいなと思いました。

四話以降も楽しみです。

中国人オタクから見た日本アニメの人気、国内アニメ配信事情と国産アニメのこれから

今回は中国のアニメ事情について書きたいと思います。

といっても主に以下の記事に関する事柄です。

togetter.com

読めばこれからの話がより分かりやすいでしょうが、読んでいなくても大丈夫だとは思います。

ここからは全て中国の友人やアニメファンに聞いたお話です。冗長なので省きますが、各文末に「~と友人が言っていました」という言葉入っていると思って読んで貰えると嬉しいです。

中国の動画サイトTop10

中国には多くの動画サイトがあります。以下が主要なプレイヤーです。

順位 プラットフォーム 親会社
1 优酷(Youku) アリババ
2 爱奇艺(iQIYi) 百度(Baidu)
3 腾讯视频(TencentVideo) テンセント
4 搜狐视频(sohu)  
5 乐视视频(LeTV) 楽視グループ
6 土豆(Tudou) アリババ
7 央视网(CNTV) 国営テレビ
8 PP视频(PPTV)  
9 芒果TV(MangoTV)  
10 哔哩哔哩(bilibili)  

これに加えて、チャイナモバイル傘下 のmigu.cnや奥飛傘下のAcfun.cnなどといった動画サイトがあり、これらの企業が日夜、14億の人口を抱える中国市場で覇を競っているわけです。

動画サイトのビジネスモデル

これらの動画サイトは殆どが同じビジネスモデルをとっています。

会員には一般会員とプレミア会員があり、月額料金を払ってプレミア会員になると様々な特典があるというものです。ニコニコ動画などと同じですね。

一番人気のあるコンテンツはドラマ

フリーミアムモデルで収益をあげる以上、どうやってプレミア会員を増やすかが重要になってきます。

まず思いつくのはコンテンツの拡充です、動画サイトの本道ですね。

中国で一番人気のあるコンテンツは国内ドラマですから、当然この部分には多くの会社が力を入れています。

そして次に人気のあるジャンルがアニメです。

テンセントはどうしたか

中国の30代以下の世代は若い頃から日本のアニメーションに触れてきた世代です。ティーンにもオタクといわれる人は多く、アニメというコンテンツには間違いなく人を集める力がありました。

業界3位のテンセントビデオはそこに目をつけました。二次元の人気が凄いと聞きつけると、豊富な資金力で作品を囲い込んだわけです。

若い世代に人気を集めるジャパニーズアニメで人を誘い込めば、プレミア会員の大幅増加が望める目論見でした。

テンセントは失敗した

プレミア会員は増えませんでした。

原因はオタクといわれる人たちの帰属心が思ったよりも強かったことです。

テンセントがアニメで集客を試みたその頃、もう世間ではアニメといえばビリビリという図式が出来上がっていたのです。

例えば10億回の再生回数を誇る「全職高手」というアニメーション作品がテンセントビデオにはあります。この作品はテンセントの独占配信ですから、視聴するには絶対にサイトを訪れる必要があります。しかし「全職高手」を見るためにテンセントにやってきたユーザーは目当てのものを見ればそれで満足しプレミア会員になることはなかったのです。

つまりアニメに力を入れてはみたものの思ったほどの貢献が無かったというわけです。

アニメはビリビリ一強

アニメといえばビリビリ。ビリビリといえばアニメです。もはや一強といって差し支えありません。

ビリビリはその他の動画サイトに比べソーシャルサイト的な側面が強く、ユーザー愛の深い傾向があります。多少子供向けだとか年齢層が低いだとかも言われていますが、逆に言うと子供に人気のサイトということでもあります。

アニメ分野には「Acfun」というビリビリよりも歴史が長く、かつてはビリビリのライバル視された動画サイトもあったのですが、奥飛による買収など様々な出来事を経てビリビリとAcfunには大きな差が出来てしまいました。

今のAcfunは誤解を恐れずにいうと日本における「ふたば」のような独自の文化圏を持つある意味排他的なサイトとなっています。

ちなみに奥飛という企業はかつてミニ四駆ウルトラマンのおもちゃを作っていた中国版タミヤのような企業です。おもちゃ業界が縮小した分、二次元分野に進出して大きな存在感を見せています。

ビリビリにないアニメは見ない

中国は違法サイトまみれ、著作権なんて概念はなく、みんな好き勝手やっている。と、そんな風に思っている人もいるかもしれませんが、それも大分昔の話です。

アニメに限っても今の中国では正規の方法で視聴する人が殆どで、違法・脱法サイトもあるにはありますが、かつてのようにメジャーではありません。

ビリビリユーザーの中には、そもそもビリビリにないアニメは面倒なので全く見ないし見たくもない、と考える人までいます。

これには中国の動画サイトユーザーの多くは公式モバイルアプリを使って視聴しているため、その他の方法で視聴するのが煩わしいという理由もあります。

iQIYiとYoukuの戦略

アニメに力を入れてみたものの思ったようにプレミア会員が増えなかったのはテンセントだけではありません。

ビリビリの牙城を崩せなかった彼らTOP2が取った次の戦略は何だったか。

とても簡単です、プレミア限定独占配信のアニメを増やしました。

こうしてしまえば、その作品を見たいユーザーはプレミア会員になるしかありません。ちなみにiQIYiのプレミア限定動画を自サイトに紐付け無料で見れるようにしたビリビリは当然のごとく訴えられ、その後自重するようになりました。

テンセントの戦略

同じくビリビリを切り崩せなかったテンセントですが、その戦略は上位二社とは違いました。

元々テンセントという企業は多くの分野に投資しており、アニメやゲームなどサブカルチャー界隈でテンセントが一枚噛んでいない分野はないというくらい様々な所でスポンサーをしています。

テンセントはそうした川上から川下まで知り尽くした強みを生かし、海外のコンテンツを買ってくるのではなく自国のアニメ産業を育てるという戦略を取りました。

中国産原作の少なさ

中国と日本の一番の違いは何か、その一つがアニメーションの原作となるべき素材の多寡です。

日本には一国だけで世界の半分以上をゆうに占める巨大な漫画市場や小説(ライトノベル)、ゲームなどがあり原作には事欠きません。

しかし中国にはそれがありません、そのためテンセントは自国のクリエイターを育てる所からはじめることにしました。

テンセントが国内クリエイターを支援するのは原作からアニメまで全てを国内・自社IPで賄うサイクルを作りたいからというわけですね。

ビリビリが勝った?

ここまでの話をまとめると、テンセントが日本アニメの配信数を減らして国産アニメに力を入れたのは日本アニメの人気が落ちたからではなく、ビジネス上の観点からということです。

2017年に入った時点でテンセントがジャパニメーション配信競争からほぼ撤退しているというのは事実で、2018年1~3月期の配信予定は「CCさくら」「刀剣乱舞」のみです。

その他の内訳は、中国で配信予定の日本アニメ全41作品中ビリビリが28作品を配信、iQIYiがプレミア限定で8作品、Youkuがプレミア限定で4作品を配信することになっているので、3社合計で40作品、ほぼ全てを網羅しているということですね。

日本のアニメの人気が落ちて、中国産アニメの人気が上がったわけではありません。見方によってはビリビリがアニメ争奪戦で勝利したともいえます。 

中国の国産アニメは人気なのか

では、テンセントが力をいれている純国産アニメに対しこれまで日本アニメを楽しんで来た層はどう思っているのでしょう。

結論からいうと、あまり期待していません。

というのもやはり、中国制作アニメというのは日本のトップレベルアニメと比べると演出や作画が劣っているように思えてしまうのです。

テンセントで10億回再生されたという「全職高手」も、このシリーズは非常に人気が高くおそらく予算も潤沢に与えられた作品だったのですが、中国制作にしてはよく出来ているというような評価が主で、あまり芳しくない評判も少なくありませんでした。

加えてこの10億再生という数字ですが上にも書いたように独占配信だからこそという一面があり、例えば「終わりのセラフ」は8400万再生なのですが、こちらはビリビリなどでも配信されており、独占ではありません。

ただし、そもそも中国のユーザーは国内動画サイトに表示されている再生数を信じていないという問題もあり、再生数と人気度合いを結びつけることに抵抗を感じる人も少なくありません。曰く「再生数なんて運営が0を一つ足せば10倍になるんだよ」とのことです。 

日本のアニメ会社制作が売りにはならないというのはホント

中国原作もののアニメ化に限った話ですが、日本のアニメ会社が制作すると変なものが出来上がるので喜ばしくないとの声があるのは確かです。

ハリウッドが日本のマンガを映画化するようなものでしょうか。細かい文化の差異から大きな違和感を抱いてしまうようです。

しかしだからといって中国のアニメ会社が制作すれば大喜びというわけでも無い所が悩ましい部分です。つまり経験の少なさから自国の文化や生活の表現を上手くアニメ風に変換する手法が未だに生み出せていないということかもしれません。 

オタクの世界はつながっている

2017年1~3月期、中国で一番流行ったアニメは何だったでしょうか、答えは簡単「けものフレンズ」です。「小林さんちのメイドラゴン」も人気でしたがけものフレンズには及びませんでした。中国でも「君は○○のフレンズなんだね」というミームは流行っていたんです。なので監督降板騒動についても逐一中国では話題になっていました。

けものフレンズ」だけではありません。ゲームでもアニメでもインタビューも含めてその多くが瞬時に翻訳されシェアされます。

日本の流行と中国の流行は大差ありません。リアルタイムで同期しています。世界はつながっているんですね。 そんな状態で日本のアニメがいきなりなくなると言われたらアニメファンは納得出来るでしょうか、そのような問は現実的ではありません。

結局日本のアニメは変わらず人気

優劣をつけるのは良くないのかもしれませんが、日本のアニメと中国のアニメを比べることは洋画と邦画を比べることに似ています。邦画ファンの人々も黒澤・小津の時代ならともかく現代の洋画と邦画を比べ、洋画>邦画という不等号に文句を言う人は殆どいないでしょう。

もちろん個々の作品を見れば、名作も少なくありません。例えば日本の弱い3D分野ではもう世界に通じるクオリティの作品もあります。しかし全体をみれば質の差はやはりあるように思います。 

アニメもゲームも中国作品のクオリティは凄いスピードで成長しています。それは事実なのですが、まだまだ至らない部分もあるのです。

いつか中国のレベルも上がり切磋琢磨してより面白い作品が出来れば良いなと思います。

アプリを中国語に翻訳したら収益はどうなったか

今回は「7年後で待ってる」を中国語に翻訳してもらった結果、収益はどうなったのか?について書こうと思います。

中国語翻訳の経緯については以下の過去記事をご覧下さい。

結論から言うと、日本よりも利益が出ました。

中国の広告単価

Android

ご存知の通り、中国ではGooglePlayが規制されています。

そのため、Android中国版はまったく利益が出ませんでした。

総合的な広告の単価は日本の100分の1以下です。

一応Admobは使えますし、他にもそれなりに使えるアドネットワークはあるのですが、構造的な問題があるのでどんなアドネットワークを使っても単価の上昇は望めないと思います。

但し、外国人には導入の難しい現地アドネットワークを使うと最大で日本の10分の1くらいの単価は出るようです。

代理で広告の運用をお願い出来る現地のパートナーがいる方は試してみると良いかもしれません。

iOS

iOSの広告単価は日本と全く遜色ありません。

Admobも使えますし、その他のアドネットワークも当然使えます。

何か特筆することも無いと思います。

課金モデル

iOSは広告単価と同様です。日本と変わりありません。

続いてAndroidですが、こちらもやはりGooglePlayが規制されてるため、通常(google)の販売システムは使えません。

どうしても課金アイテムを売りたい場合はAlipay等の中国で使われている電子決済サービスを自前で導入する必要があります。しかしこれは非常にハードルが高く、個人開発者がやるのは実質、不可能かと思います。

広告の時と同様に現地のパートナーを探すのが現実的な方法となってきます。

中国は人が多い

中国の人口は14億近くあります。

ここまで読むと「収益が得られるのはiOSだけか……」とがっかりするかもしれませんが、iOSだけでも十分に利益は見込めます。

事実、僕のアプリも日本で得た収益よりも中国で得た収益の方が高くなりました。

自作アプリの中国語への翻訳を考えているが、収益面での見通しが暗そうなので悩んでいるという方は、ぜひ一歩踏み出してみて良いかと思います。

その他

中国語使用人口

中国語に翻訳すると、中国本土以外にも台湾、香港、マカオシンガポール等の人々にリーチ出来ます。中国本土に比べれば数は少なくなりますが、それでも華僑などを合わせればゆうに5000万人を超える人数となります。中国本土以外ではGooglePlayやそれを介した課金ビジネスも使えますし、広告単価もそんなに悪くありません。

結局はユーザーに遊んで貰えるかどうかが重要

中国市場が悪くないといっても、そもそもアプリをDLして遊んで貰えないことには収益も何もありません。

しかし、中国と日本は文化的に似通った面が多いので日本で多くDLされたゲームであれば、中国でも沢山の人にプレイされる可能性は高いと思います。

僕の作ったアプリなどは、運良く中国で日本以上に多くのユーザーさんに遊んで頂けました。

何が起こるかなんて誰にも分かりません。もしチャンスがあるならチャレンジしてみて損はないと思います。

終わりに

三ヶ月以上も前の過去記事で「収益のことも分かればまた書きたいと思います!」と息巻いていた割には、なんだか大雑把な中身になってしまいすみません。

一応大事な所は書いたつもりですが、もしここが分からない!とかPujia8スタジオ関連でこれが…とかあれば、知っている範囲で答えますので誰でもtwitter等で聞いてください。

中国のアンドロイドストアが凄い!盛り上がるインディーゲーム市場

今回は中国のAndroidストア事情について書こうと思います。

途中でPujia8スタジオというのが出てきますが、なにそれ?という方はこちらの記事をどうぞ。 

Pujia8スタジオという中国の元海賊版翻訳グループが合法企業化したお話です。

中国のAndroidストア事情

中国の大手アンドロイドストア概況

現在、中国本土ではGooglePlayが使えません。2010年Googleが撤退したからです。

そのため大量のAndroidストアが乱立しています。

以下が主要なストアとそのMAU(月間ユニーク訪問者数)です。

※数字は結構堅め(各社の公式発表では大体この数割増し)

順位 プラットフォーム MAU(万)
 1 応用宝(テンセント) 19235
 2 百度手机助手(バイドゥ) 17433
 3 360手机助手 12188
 4 小米応用商店(シャオミ) 10435
 5 OPPO軟件商店 9142
 6 華為応用市場(ファーウェイ) 8077
 7 vivo応用商店 5549
 8 豌豆荚 2863
 9 PP助手 2576
 10 魅族応用商店 2427
 11 安卓市場 2037
 12 三星応用商店 1732
 13 安智市場 1680
 14 酪派応用商店 1499
 -- TapTap 231

ちなみにFacebookの国内MAUが2700万、Instagramが1600万です。

まずTencent、Baidu、Qihoo360の御三家が上位を占めています。1位のテンセントは2億MAUですね。Qihoo360についてはあまり聞き馴染みがないかもしれませんがNYSEにも上場している中国のセキュリティソフト最大手です。

次にXiaomi、OPPO、Huawei、VIVOの中国スマホメーカーが揃ってランクインしています、これらのストアアプリは端末にプリインストールされているものですね。

続く豌豆荚はソフトバンクが過去に出資し、2016年アリババに買収された企業です。

といってもおそらく「豌豆荚」なんて誰も聞いたことないですよね。僕も知りませんでした。そんな日本では無名の存在でもFacebookと同じだけのMAUがあるんですから、中国の規模感の凄さが分かるかと思います。

モバイルアプリの市場規模

もちろん凄いのはユーザー数だけではありません。

中国のビデオゲーム市場は2017年、290億ドルまで拡大し世界全体の25%を占めると予測されています。内モバイルゲーム市場は146億ドルです。

これは特に市場の大きいアメリカや日本と同等、もしくはそれ以上の数字となる見込みです。中国はAndroid比率が高いですから、Androidアプリに限れば世界一となります。

政府の規制

世界中のゲームデベロッパー(開発会社)がこの市場を狙っています。

しかし参入は簡単ではありません。なぜなら中国のモバイルゲーム市場は政府の厳しい統制を受けているからです。

まず応用宝(テンセント)などの大手ストアにおいて課金収益型のアプリをリリースしようと考えた場合、政府の発行番号(版号)を取得する必要があります。

しかしこの発行番号、簡単には取れません。審査は厳しく、期間も3~6ヶ月程かかります。当然ですが取得には現地の企業と組む必要もあります。

いざ正式にリリース出来たとしても思ったよりは儲からないかもしれません。なぜなら中国では各アプリストアと現地パブリッシャーが手数料を二重に徴収しているからです。日本のGooglePlayではユーザーが100円払えばデベロッパー(開発会社)には70円が支払われますが、中国ではおよそ30~20円程度まで落ち込みます。

ちなみにテンセントはゲーム売上世界No1の企業となりましたが、中国のコアユーザーにしてみればテンセント開発のゲームはどこかで見たようなゲームばかりでオリジナル性が感じられないとのことでした。

海外のネットゲーム発表時、中国の代理店がテンセントだと分かると皆「やった!テンセント愛してる!」と喜ぶが、テンセントが新作ゲームを発表すると「またテンセントかよ…」というのが中国のゲーマーの感覚のようです。

無料ゲームがストアにない理由

なら課金収益型のアプリではなく広告収益型のアプリをリリースすれば良いだろうと思うかもしれませんが、中国の大手ストアにはそういった無料ゲームは殆どありません。

理由は簡単でストアとパブリッシャーに旨味がないからです。上記の図で示した通り中国では各ストアが必死に覇権を争っているわけですが、中で働いている社員達もまた死に物狂いで業績を競い合っています。

大手ストア・パブリッシャーの社員には厳しい月売上ノルマがあり、自分の担当するアプリでその金額を絶対に達成しなければなりません。そのため無料ゲームにリソースを費やしている時間などありません。わざわざ時間を削って広告モデルの無料ゲームをリリースした所で一銭の収入にもならないわけですから。

そのため大手ストアでは手数料の多くはいるオンライン・ソーシャルゲームがランキング上位を常に占めています。仮に無料・インディーゲームが配信されたとしてもDL数が1万を超えることはまずありません。

ちなみに、中国でもGooglePlayを使っている人はコアユーザーを中心に結構いるようです。もちろん通常の方法ではアクセス出来ないのでモバイルVPNを使っているわけですが、その内9割はFGOユーザーだとか。そんなことがまことしやかに言われているようです。(中国では日本のFateGoが流行っていますが、中国版よりも日本版の方が規制もなく更新も早いためコアなユーザーは日本版をプレイするという意味) 

盛り上がるインディーズ市場

モバイルゲームが流行る背景

中国の学生は皆、寮住みです。

高校生から入寮し、大学卒業までずっと二段ベッドが並んだ部屋で複数の学友と暮らします。クラスメイトが横で勉強しているのにテレビから大音量を垂れ流しゲームを楽しむなんて出来ないですよね。

ということで中国の学生は皆ノートPCやスマホでゲームをします。中国は今やPCゲームDL販売サイト「Steam」の売上が米国に次ぐ2位となっています。しかし対してコンシューマーの市場規模はモバイルやPCゲームに対し10分の1以下、微々たるものです。 

2015年までは「ゲーム禁制令」という据え置きゲーム機の販売を規制する法律があったので、それも原因の一つでしょう。コアゲーマーは香港経由などで密輸していたそうですが、やはり学生やライトユーザーにとってはまだまだゲームはPCやモバイル機器でやるものという認識のようです。

ちなみに中国での高校生活についてはこちらの中国産ギャルゲーで追体験出来るようですよ。

高考恋爱一百天官方网站

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高考とは「全国普通高等学校招生入学考試」のことで、日本のセンター試験を100倍の規模にしたような中国での一大イベントです。このゲームをプレイした人はもれなく恋愛なんかよりも成績の方が気になってしまうとか。 

TAPTAPの登場とインディゲーム元年

前段で大手ストアにはインディゲームがないと書きましたが、それはあくまで供給側の都合です。「ユーザーからすれば面白いインディゲームをプレイしたい人もいるだろうし、その需要に応えれば他社との競争でも有利になれるのでは?」と考えた人もいるかと思います。

その考えをそのまま実行したのが今、勢いのある中国のAndroidストア「TAPTAP」です。

TAPTAPはユーザー同士が活発に議論し面白いゲームをオススメし合うストアというコンセプトで中国のスタートアップ企業により運営されています。TAPTAP自身の運営はあくまで中立で、ユーザーが面白いゲームを見つけ皆にオススメする環境(場所)の構築に全力を尽くすという方針のようです。

しかしそんなことよりも、TAPTAPにおいて特筆すべき点は審査が緩い(ほぼ無い)という所です。

大手では数ヶ月かかる所がTAPTAPでは数日で済んでしまいます。これにはおそらく様々な規制の抜け道やアプリの取捨選択、課金要素の有無などが絡んでいるのですが、まず間違いなくグレーゾーンです。

つまり最大手のストアが政府の規制に従いガチガチの体制で鈍重に進むのを尻目に身軽なスタートアップがグレーゾーンを駆け抜けるという、よくある光景が中国でも繰り広げられているわけです。

但しそういった運営ですから他社の最大手ストアが正式にリリースしているオンラインゲームなどは配信出来ません。そのため取った戦略がインディゲームのプッシュでした。

現在はTAPTAPにつられてかTencentや360でもインディゲーム・オフラインゲームのプッシュが始まっています。本格的な流行がくるのは来年からだと思いますが、ある意味今年は中国のモバイルインディゲーム元年といえるかもしれません。

ダモクレスの剣

TAPTAPは自称MAU1000万、前記の図によれば231万ですが、中国の10代や20代の中では普通に有名なストアとのことらしいです。

しかしTAPTAPの中身を見てみるとあることに気付きます。(日本語版もあります)

日本手游下载榜|日本手游排行榜 | TapTap 发现好游戏

GooglePlayでリリースされているゲームがそっくりそのまま配信(転載)されているんですね。これはPujia8スタジオの記事でも書きましたが、現在の中国の法体系では違法ではないそうです。

しかし最大手はそういうことはしません。なぜならいつ取り締まりの対象になるかわからないからです。中国では昨日まで合法だったことが当局の舌先三寸で次の日から違法になる、遡って取り締まれるということも珍しいことではありません。

これを中国ユーザーは「ダモクレスの剣」と呼んでいます。古代ヨーロッパの故事由来の言葉ですね。

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最大手の企業、特にテンセントなどは今や世界一のゲーム企業となり中国を代表する会社ですから、迂闊なことは出来ませんし、他社も大手は万が一に備え安全マージンをとります。

そのため違法でなないが、グレーゾーン(ダモクレスの剣)なので大手はやっていない事をスタートアップが気にせずガンガンやる、といった風景が中国では日常茶飯事となります。

ちなみに中国では2015年ゲーム禁制令が緩和されましたがコアゲーマーはまったく安心していないようです。緩和されても審査は依然としてあり、その審査を通過出来るゲームが少なすぎる + 国が「禁制令を緩和したんだからもう今までみたいにゲーム密輸のお目こぼしはせず、厳しく取り締まるよ」というコンボで緩和前よりも遊べるゲームがむしろ少なくなってしまう可能性を危惧しているようです。

数日で10万DL

突然ですがタイニーアドベンチャーというとても面白くて可愛いゲームがあります。

タイニーアドベンチャー(iOS)

タイニーアドベンチャー(Android)

日本の個人制作者が開発したゲームです。非常の作り込まれた品質の高い作品なのですが、残念なことに日本のAndroidストアではあまりDL数が伸びていません。皆さんぜひ遊んで見て下さい。

ところでこのタイニーアドベンチャーがTAPTAPに転載されています。

現時点でDL数177282回です。タイニーアドベンチャーは8月リリースされました、もし日本なら一月でDL数17万というとかなりブレイクしたといえます。

しかし中国ではこの数字はそれほどインパクトのあるものではありません。もちろんキチンと作り込まれたクオリティの高いゲームでないと個人開発だろうとこの数字は達成出来ません。しかし逆に日本ではどんなに品質の高いゲームでも個人開発だと1000DL程度で終わってしまったりします。

このことからも中国での規模感が分かると思います。以前までは個人開発ゲームをプレイするなんて一部のコアなユーザーだけでした。しかし今、中国では大作ゲーム疲れが見え始め、お手軽なインディゲームが注目されようとしています。

ただし儲かりません

折角インディゲームがたくさんDLされ遊んで貰える環境が整ってきた中国Androidストアですが、まだまだ開発者にとってはあまり儲からないようです。

特に外国の開発者にとってはそれが顕著です。

中国ではGooglePlayが規制されているため、通常のストア誘導広告とは違う形の広告が必要です。いくつか現地に対応したアドネットワークがあるにはあるのですが、それでも日本と比べると著しく収益性が低くなります。課金アイテムも売れません。

一応、課金アイテムの販売にはアリペイ(支付宝)という方法もあるにはあるのですが、日本の一開発者が導入するのはあまり現実的ではないようです。

但し以下のような取り組みもありますし、これからまた状況は変わってくると思います。

jp.gamesindustry.biz

終わりに 

中国ではインディゲーム市場が盛り上がり、Pujia8スタジオのように日本のゲームを無償でローカライズする企業なども出てきました。(無償ローカライズについては以下の記事を読んで下さい)
しかしまだまだメインはPCでもモバイルでもオンラインゲームです。

ただ、今後どうなるかは分かりません。もしかしたら中国は世界一のモバイルインディゲーム市場となり、中国産の面白い個人開発ゲームがたくさん登場し、日本のインディーもつられて盛り上がり、今以上に面白いゲームがたくさん遊べる日がいつか来るかもしれません。

そんな日が来ると良いですね。